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POM(ポリアセタール)の導電性を理解する:素材特性・加工・用途までを完全ガイド

POM(ポリアセタール)の導電性を理解する:素材特性・加工・用途までを完全ガイド

プラスチック素材の中でも幅広く使われる POM(ポリアセタール)。その剛性・摩耗耐性に加え、近年では“導電性”を付与したタイプが注目されています。しかし、なぜ導電性?どんな仕組みで?用途に合うのは?――こうした疑問を持つ設計者・技術者は少なくありません。本記事では、POMの導電性グレードの構造や加工性、実用上の利点と注意点を深掘りし、素材選定で失敗しないための知見をお届けします。

POMとは何か:基本構造と特性

POMは結晶性の高い熱可塑性樹脂で、化学式で示すと(-CH₂–O-)が繰り返される構造を持っています。安定した分子構造と高結晶性により、耐摩耗性・低吸水性・良好な機械特性を備えています。特に自動車部品や精密機械部品などで多用されてきました。導電性を持たせるためには、そこで添加物や充填剤の工夫がなされ、次章で構造を詳しく見ていきます。

導電性POMとは何か:構造と付与メカニズム

導電性POMは、標準POMに導電フィラー(例:カーボンファイバー、グラファイト、金属粉)を配合し、体積抵抗率を下げ静電気除去性・放電性を確保した樹脂です。一般的なPOMが体積抵抗率10¹¹~10¹³Ω・cmであるのに対し、導電性グレードでは10³~10⁷Ω・cmまで低減化される例があります。

標準POM vs 導電性POMの体積抵抗率比較
素材 体積抵抗率(Ω・cm) 代表用途
標準POM 10¹¹~10¹³ ギア、スライダーなど
導電性POM 10³~10⁷ ESD用途、センサー部材

導電化のポイントとしては以下があります:

  • 導電フィラーの種類・含有率が性能に直結
  • 配向・分散性によって導電ネットワークの形成度が変わる
  • 充填剤増加による機械特性低下・加工性悪化のトレードオフあり

導電性POMの加工性と設計上の注意点

導電フィラーが添加されることで、以下のような影響が生じることがあります:

  • 充填剤増加により靭性・伸びが低下
  • 充填剤の研磨性・摩耗性が加工工具寿命に影響
  • 射出成形時の流動性低下・保圧・冷却条件の見直し
  • 電気的接触面設計、グラウンドパス設計が必要

また、導電性POMでは使用環境が静電気除去やアース接地を前提とするため、接続設計や導電経路の確保が重要です。

実用用途と導電性POMの適用シーン

導電性を付与したPOMが活用されている代表的な用途を以下に紹介します:

  • ESD(静電気放電)対策部品:搬送ライン、プリント基板搬送ローラ
  • センサー・電子部品ハウジング:アース接地が必要な筐体・コネクター
  • 充電機器・バッテリー部品:放電経路を設ける構造部材
  • 自動化装置や精密機器:摩耗部品でかつ静電気対策が必要な場面

用途ごとの選定の考え方として、以下のチェックリストが有効です:

  1. どの程度の体積抵抗率(例:10⁴Ω・cm以下など)が必要か?
  2. 使用温度・湿度・耐薬品性・耐摩耗性は標準POMと同等か?
  3. アース接地・導電パス設計は実装可能か?
  4. 加工先行試験・充填剤影響の有無を評価したか?

さらに具体的な活用シーンや比較データについては、充電機器向けPOM導電素材の活用事例に関して解説で詳しく紹介しています。

導電性POMの評価・試験方法

導電性POMを採用する際には、以下のような試験を実施しておくことが推奨されます:

  • 体積抵抗率測定:試験片を規定温度・湿度下におき測定。
  • 接触抵抗試験:部材として組み込まれた状態の導通確認。
  • 耐摩耗・静電耐久試験:充填剤による摩耗性低下や静電性能の劣化を評価。
  • 射出成形評価:充填剤による流動低下、寸法精度変化、ウィード回避の確認。

設計時はこれらの評価結果をもとに「導電性確保」+「機械特性維持」を両立させるための仕様設計が必要です。

よくある質問(FAQ)


導電性POMは、標準POMにカーボンファイバーやグラファイトなどの導電フィラーを添加し、静電気の蓄積を防ぐ性質を持たせた樹脂です。体積抵抗率は10³〜10⁷Ω・cmと、標準POM(10¹¹〜10¹³Ω・cm)に比べ大幅に低下しています。導電フィラーの含有率や分散性によって性能が変わるため、用途に応じたグレード選定が重要です。


導電性POMはフィラー添加により流動性が低下し、射出成形条件の最適化が求められます。また、充填剤の摩耗性が高いため、金型や切削工具の寿命に注意が必要です。保圧・冷却条件の見直しや、導電経路の設計が成功の鍵になります。加工トラブルを防ぐポイントについては、POMの加工のコツに関して解説で詳しく説明しています。


主に静電気対策が必要な分野で利用されています。代表的な用途は、プリント基板搬送ローラ、センサー筐体、充電機器部品などです。摩耗部品としても高い信頼性があり、ESD(静電気放電)対策部品としても活躍します。


導電性POMでは、体積抵抗率試験や接触抵抗試験のほか、摩耗・静電耐久試験も行われます。これらの試験結果を基に「導電性能」と「機械特性」を両立させる設計が重要です。

まとめ:導電性POMを使いこなすためのポイント

導電性POMは、静電気対策や電子機器向け部材として大きな魅力がありますが、標準POMとは異なる設計・加工上の注意点があります。添加フィラーの影響、加工条件、アース設計、そして導電経路設計が成功の鍵です。選定から成形、評価までを一貫して考えることで、導電性POMの性能を最大限に活用できます。

本記事では、導電性POMの構造から用途、加工・設計、試験方法までを網羅しました。設計者・技術者の皆さまが“失敗しないための”素材選定・開発に役立てていただければ幸いです。

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