POM(ポリアセタール)の物性を徹底解説:設計・加工・用途までの完全ガイド
POM(ポリアセタール)の物性を徹底解説:設計・加工・用途までの完全ガイド
機械部品や精密構造体に多用される強みを持つ POM(ポリアセタール)ですが、その素材選定や加工において「物性」が正しく理解されていないと、思わぬトラブルを招くことがあります。変形、クリープ、摩耗、寸法変化――こうした課題に対して、POMの物性を正しく掴むことが「設計で失敗しないための」鍵となります。本記事ではPOMの物性をデータで比較し、設計・加工・用途事例を交えて詳しく解説します。
POMとは?素材特性の基礎
POMは、ホルムアルデヒドを重合して得られる熱可塑性樹脂で、化学式で示すと(-CH₂–O-)の繰り返し構造を持ちます。この結晶性の高い構造が、優れた機械的特性や寸法安定性をもたらしています。たとえば、低吸水率・高剛性・低摩耗性という特長があり、精密ギアや搬送部材、摺動部品で多く採用されます。
POMの代表的物性データと設計理解
設計段階で押さえておきたいPOMの主要物性をご紹介します。
| 物性項目 | 代表値 | 設計上の意味 |
|---|---|---|
| 引張強度 | 約 60 MPa | 部品の耐荷重性能に責任 |
| 曲げ強さ | 約 90 MPa | 梁・フランジ形状部材の変形抑制 |
| 衝撃強さ(Izodノッチ) | 5-10 kJ/m² | 突発荷重対応設計に必要 |
| 硬さ(H Dスケール) | > D80 | 摺動部や硬質要求部材の材料選定基準 |
| 吸水率(23℃/24h) | 約 0.3 %以下 | 寸法変化の影響を設計上に反映 |
これらの数値を単純に“高ければよい”と捉えるのではなく、実際の使用環境・荷重条件・加工後の寸法精度要求と照らし合わせることが重要です。たとえば、寸法精度要求が±0.05 mmレベルであれば、吸水や温度変化による変動を加味して安全設計する必要があります。
温度・湿度・環境の影響
POMは温度が上昇すると弾性率・強度共に低下し、長期使用ではクリープ(持続荷重下の変形)も発生します。湿度や吸水も寸法変化・特性低下の原因となります。設計時には、使用温度範囲・湿度・化学環境を予め評価し、「最悪条件」を想定して仕様を詰めることが求められます。
加工性・寸法安定性との関係
POMの物性は、加工性(切削・射出成形)および寸法安定性と密接に関連しています。たとえば低吸水率は寸法変化の少なさにつながり、製品精度の維持を助けます。しかし、加工条件や冷却条件を誤ると、残留応力による反りやクラック、寸法ばらつきが生じます。
加工工程の観点から、POMの加工時の温度管理・保圧・冷却条件・ゲート位置設計など詳細に把握しなければなりません。加工条件と物性の関係に関しては、POMの加工条件ガイドに関して解説で詳しく紹介しています。
用途事例と物性要求レベル
用途別に求められる物性レベルを整理することで、設計指針が明確になります。
| 用途例 | 物性要求 | ポイント |
|---|---|---|
| ギア(低~中荷重) | 引張強度≥ 50 MPa、硬さD70以上 | 摩耗・潤滑影響も考慮 |
| 搬送ローラ(精密機械) | 吸水率低、持続荷重耐性高 | 寸法公差±0.05 mm以下の必要あり |
| 摺動軸受 | 衝撃強さ高、摩擦係数低 | 荷重/速度に応じて設計 |
| 化学薬品接触部材 | 耐薬品性強化グレード(POM-C) | 耐薬品環境では物性だけでなく長期安定性も必須 (参考: JIS) |
用途に応じてPOM-H/POM-Cを選ぶことがポイントです。さらに、機械特性だけでなく、耐薬品性・耐候性・寸法安定性といった“物性の複合要求”にも対応できる素材仕様が求められます。
設計・選定時に押さえるべきチェックポイント
以下は設計段階で必ず確認すべきチェックリストです:
- 使用環境の条件(温度/湿度/荷重)を明確にする。
- 要求物性(強度・硬さ・寸法変動)を数値化する。
- POM-H/POM-Cのどちらが適切か判断する。
- 加工方法(射出/切削)と公差設計を整合させる。
- 試作や物性確認(自社あるいはメーカデータ)を行う。
よくある質問(FAQ)
まとめ:POMの物性を活かすための実務ポイント
POMの物性は、素材としての優れた特長—剛性、耐摩耗性、寸法安定性—を支える根幹です。しかし、「素材仕様を把握して選定する」「加工・設計条件を物性に合わせる」「長期安定性を見据える」ことがなければ、その性能を発揮しきれません。設計者・技術者の皆さまには、本記事で紹介したデータ・比較・チェックポイントをもとに、素材選定・設計・加工の一連の流れを整備いただければと思います。