POM材料とは?グレード別の特徴と用途を徹底解説
お探しの情報を手に入れるために、こちらの記事をお読みいただきありがとうございます。今回は、POM材料についてご紹介いたします。POMとは、ポリアセタールの略称であり、その特性や用途、さらにはグレードごとの特徴について詳しく解説してまいります。
POMは、機械部品や工業製品などに広く使用される素材であり、その特性によってさまざまな用途に適しています。異なるグレードごとに異なる特徴を持ち、それぞれがどのような場面で活躍するのか、そのポイントを一つ一つ丁寧に解説してまいります。
POM材料について詳しく知りたい方や、グレードごとの特徴について比較検討したい方にとって、この記事はきっと役立つ情報となることでしょう。POM材料の世界に踏み込み、知識を深めるための第一歩として、ぜひご一読いただければ幸いです。
POM樹脂のグレード選びは、使用する環境や要求される特性に基づいて適切なグレードを選ぶことが重要です。上記の表を参考に、用途に最適なPOMグレードを選定してください。
Contents
POM材料の基礎知識
POM(ポリアセタール樹脂)は、熱可塑性のエンジニアリングプラスチックであり、耐摩耗性や強度に優れ、精密な機械部品や部品の製造に広く使用されています。POMは一般的に「デルリン」とも呼ばれ、耐久性や加工性に優れた特性を持っています。POM樹脂とは
POM(Polyoxymethylene)は、化学的にはポリアセタール樹脂の一種で、エチレングリコールを基にしたポリマーです。高い剛性、耐摩耗性、低い摩擦係数、優れた加工性を特徴とし、特に機械的性質が重要視される部品に使用されます。- 化学構造:
- POMは、-CH₂O-の単位を繰り返すポリマーです。この構造が、他のプラスチックと比べて優れた機械的特性を持たせています。
- 特性:
- 高い強度、剛性、耐摩耗性
- 優れた低摩擦特性
- 高い寸法安定性
- 低吸水性
- 耐薬品性
POMの歴史と発展
POMの商業的な利用は、1950年代に始まりました。最初に商業生産を行ったのはデュポン社であり、同社はポリオキシメチレン(POM)を「デルリン」という商標名で販売しました。この材料は、当初は精密部品や機械部品の用途に使われ、その耐摩耗性と剛性の特性が注目されました。- 発展と普及:
- 1950年代にポリアセタール樹脂が発明され、以来、自動車産業や電子機器、精密機械など、さまざまな分野で利用されるようになりました。
- POMはその特性から、より高精度の部品が必要な場面で重宝され、次第にその用途が拡大していきました。
ポリアセタール樹脂の一般的な特性
ポリアセタール(POM)樹脂は、他のエンジニアリングプラスチックと比較して、特に以下の特性が注目されています。- 優れた機械的特性:
- POMは強度と剛性が高く、引張強度や圧縮強度、曲げ強度に優れています。これにより、高負荷がかかる部品に使用されます。
- 低摩擦と耐摩耗性:
- POMは低い摩擦係数を持っており、摩耗に強いため、摺動部品やギア、ベアリングなどに多く使用されます。
- 耐薬品性:
- 酸、アルカリ、油などの一般的な化学物質に対して良好な耐性を持っており、化学機器や食品産業でも利用されます。
- 低吸水性:
- 水分の吸収が少なく、湿度の変化に対して安定しています。これにより、寸法安定性が保たれます。
- 加工性:
- POMは加工が容易で、射出成形や押出成形、圧縮成形など、さまざまな方法で成型可能です。
POM樹脂の特徴と加工方法
POM樹脂はその優れた機械的特性から、精密な部品や高耐久性を必要とする製品に広く使用されています。ここでは、POM樹脂の物理的特性、熱的特性、加工方法、および表面処理について詳しく説明します。POM樹脂の物理的特性
- 強度と剛性:
- POMは非常に高い引張強度、圧縮強度、曲げ強度を持ち、機械的負荷に耐える能力が高いです。これにより、機械部品や自動車部品などの用途で広く使われます。
- 低摩擦特性:
- 摩擦係数が低いため、ギアやベアリング、摺動部品に適しています。摩耗に強く、長期間の使用でも性能が維持されます。
- 寸法安定性:
- 低吸水性を持ち、水分吸収が少ないため、湿度や温度変化による寸法の変化が少ないです。これにより、精密部品に適しています。
- 耐薬品性:
- 酸、アルカリ、油、溶剤など、多くの化学物質に対して優れた耐性があります。これにより、化学機器や食品産業に使用されることが多いです。
熱的特性と耐久性
- 熱安定性:
- POMは高温環境でも良好な性能を発揮しますが、長時間の高温曝露や過度な加熱は、変形や劣化を引き起こす可能性があります。通常の使用温度範囲は-40℃から+100℃程度です。
- 耐久性:
- 摩耗に強く、長期間使用しても耐摩耗性が低下しにくいです。また、耐UV性が低いため、屋外での使用には注意が必要ですが、内部部品や機械部品においては非常に優れた耐久性を発揮します。
加工方法と注意点
- 射出成形:
- POMは熱可塑性樹脂であるため、射出成形に適しています。この方法は複雑な形状の部品を大量生産するのに適しています。
- 圧縮成形:
- POMは圧縮成形にも適しており、特に厚みのある部品を製造する際に使用されます。
- 機械加工:
- フライス盤や旋盤などを使用して、POMは精密な機械加工が可能です。切削性が高く、精度の高い加工が求められる部品に適しています。
- 溶接:
- POMは溶接が可能ですが、適切な技術と温度管理が必要です。熱に敏感なため、過度な温度に曝露しないように注意が必要です。
- 注意点:
- POMは加熱時に変形しやすいため、成形時には適切な温度と圧力の管理が求められます。また、吸水性が低いとはいえ、湿度の影響を受けるため、保管時には乾燥環境を維持することが重要です。
POM樹脂のグレードと選び方
POM樹脂はその特性に応じて様々なグレードが提供されており、用途に適したグレードを選ぶことが重要です。以下では、POM樹脂のグレード別の特徴と、異なる用途に適したPOMグレードの選び方、グレードによる性能の比較について解説します。グレード別の特徴
- 標準POM(ホモポリマー):
- 特徴: 標準的なPOM樹脂は、優れた機械的強度、耐摩耗性、耐薬品性を持つ基本的なグレードです。通常、機械部品や精密部品などの一般的な用途に使用されます。
- 特性: 高い剛性、低摩擦、高耐久性、低吸水性。
- POM共重合体(コポリマー):
- 特徴: POMの共重合体は、ホモポリマーよりも改善された耐熱性と耐化学薬品性を持っています。高温や化学的に過酷な環境での使用に適しています。
- 特性: 高い耐熱性、優れた耐薬品性、優れた寸法安定性。
- ガラス充填POM:
- 特徴: ガラス繊維が加えられたPOM樹脂は、強度や剛性が向上し、熱膨張率が低く、さらに機械的特性が改善されます。高強度を要求される部品や精密機器に使用されます。
- 特性: 高い強度、剛性、耐摩耗性、熱安定性。
- 潤滑剤添加POM:
- 特徴: 低摩擦特性を向上させるために潤滑剤が添加されたPOMです。摩擦と摩耗が重要な用途に最適です。ギアやベアリングなどに使用されます。
- 特性: 低摩擦、高耐摩耗性、長寿命、騒音低減。
- 抗菌POM:
- 特徴: 抗菌特性が付与されたPOMは、食品産業や医療機器で使用されることが多いです。細菌や微生物の増殖を抑制する特性を持ちます。
- 特性: 高い抗菌性、耐薬品性、耐熱性。
異なる用途に適したPOMグレードの選び方
- 精密機器や電子部品:
- 適したグレード: 標準POM(ホモポリマー)
- 理由: 高い寸法安定性と優れた機械的特性が必要であり、標準POMが適しています。
- 高温環境や化学的環境下での使用:
- 適したグレード: POM共重合体
- 理由: 耐熱性や耐薬品性が求められる場合、POM共重合体がより適しています。
- 高強度・高剛性が求められる部品:
- 適したグレード: ガラス充填POM
- 理由: ガラス繊維によって強度と剛性が向上し、機械的性能が必要な部品に最適です。
- 摩擦や摩耗を減らす部品:
- 適したグレード: 潤滑剤添加POM
- 理由: 低摩擦性と耐摩耗性を持つ潤滑剤添加POMは、ギアやベアリングなど摩擦が重要な部品に最適です。
- 食品業界や医療機器:
- 適したグレード: 抗菌POM
- 理由: 抗菌性を必要とする場合、抗菌POMが適しています。食品や医療機器で使用されます。
グレードによる性能の比較
特性 | 標準POM(ホモポリマー) | POM共重合体 | ガラス充填POM | 潤滑剤添加POM | 抗菌POM |
---|---|---|---|---|---|
引張強度 | 高い | 非常に高い | 高い | 高い | 高い |
耐摩耗性 | 高い | 高い | 非常に高い | 非常に高い | 高い |
耐薬品性 | 高い | 非常に高い | 高い | 高い | 高い |
耐熱性 | 高い | 非常に高い | 高い | 高い | 高い |
摩擦係数(低摩擦性) | 普通 | 普通 | 普通 | 低い | 普通 |
寸法安定性 | 高い | 高い | 高い | 高い | 高い |
用途 | 一般機械部品 | 高温・化学環境部品 | 高強度部品 | 摩擦部品 | 食品・医療 |
POM樹脂の長所と短所
POM樹脂は、幅広い産業で使用される高性能なエンジニアリングプラスチックですが、長所と短所を理解することが重要です。以下では、POM樹脂の利点、制限・課題、そして他のエンジニアリングプラスチックとの比較について説明します。POM樹脂の利点
- 高い機械的強度:
- POM樹脂は非常に強度が高く、引張強度や圧縮強度が優れています。このため、耐荷重性の高い部品に適しています。
- 耐摩耗性:
- POMは低摩擦係数を持ち、耐摩耗性に優れています。ギアやベアリング、滑動部品など、摩擦が関わる用途に非常に適しています。
- 高い寸法安定性:
- POM樹脂は温度変化に対して非常に安定しており、長期間にわたる使用でも寸法がほとんど変化しません。これにより、精密部品の製造に適しています。
- 優れた耐薬品性:
- 多くの化学物質に対して高い耐性を示し、特にアルカリや酸に強いです。これにより化学薬品が触れる環境での使用に適しています。
- 低吸水性:
- POM樹脂は水分をほとんど吸収せず、湿気の多い環境でも安定した性能を維持します。
- 高い耐熱性:
- POM樹脂は高温でもその性能を保つことができ、耐熱温度は約100℃程度です。
POM樹脂の制限と課題
- 高温での強度低下:
- POMは耐熱性に優れていますが、極端に高い温度環境(100℃以上)では強度が低下するため、長時間高温にさらされる用途には向きません。
- 紫外線に弱い:
- POM樹脂は紫外線(UV)に対する耐性が低く、屋外で使用する場合、長期間紫外線にさらされると物理的特性が劣化する可能性があります。
- 高価な材料コスト:
- POMは他のプラスチック材料に比べて比較的高価であり、コスト面での制約がある場合もあります。
- 割れやすい:
- POMは衝撃に対してやや脆い性質があり、衝撃や極端な力が加わると割れやすくなることがあります。
- 加工時の注意が必要:
- POM樹脂は加工中に変形しやすいことがあり、加熱時に注意が必要です。また、切削加工などを行う場合には、冷却処理を適切に行わないとひび割れを生じることがあります。
他のエンジニアリングプラスチックとの比較
特性 | POM樹脂 | ナイロン(PA) | ポリカーボネート(PC) | ポリフェニレンサルファイド(PPS) |
---|---|---|---|---|
機械的強度 | 高い | 高い | 高い | 非常に高い |
耐摩耗性 | 非常に高い | 中程度 | 低い | 高い |
寸法安定性 | 高い | 中程度 | 高い | 非常に高い |
耐薬品性 | 高い | 高い | 中程度 | 非常に高い |
耐熱性 | 高い(100℃程度) | 中程度 | 高い | 非常に高い |
紫外線耐性 | 低い | 高い | 高い | 高い |
加工性 | 良好 | 良好 | 優れた | 良好 |
コスト | 高い | 中程度 | 高い | 高い |
- POM vs ナイロン(PA):
- ナイロンはPOMに比べて摩擦係数が高く、吸湿性も高いため、湿気の多い環境ではPOMの方が適しています。ナイロンは高温や強度の点で優れていることもありますが、摩擦や寸法安定性ではPOMの方が優位です。
- POM vs ポリカーボネート(PC):
- ポリカーボネートは透明性を有し、衝撃強度が非常に高いですが、摩耗に関してはPOMに劣ります。POMは耐摩耗性や耐薬品性の点で優れていますが、PCは衝撃吸収性に優れています。
- POM vs PPS:
- PPSは非常に高い耐熱性と化学耐性を持ち、特に高温環境に強いですが、POMは摩耗や寸法安定性の面で優れています。PPSはコストが高いため、特別な用途に使われることが多いです。
POM樹脂の応用分野
POM樹脂はその優れた機械的特性、耐摩耗性、耐薬品性を活かして、さまざまな産業で広く利用されています。以下では、主な応用分野について説明します。自動車産業における用途
- 部品の摩耗や摩擦の軽減:
- ギア、ベアリング、カム、シャフトなどの動的部品で使用され、摩擦係数の低さと耐摩耗性により、エネルギー効率の向上と部品寿命の延長を実現します。
- 軽量化:
- 自動車の部品において、POM樹脂は軽量であり、車両全体の軽量化に貢献します。軽量化は燃費向上やCO2排出削減にもつながります。
- 耐薬品性:
- 自動車の冷却系統やブレーキ部品など、化学薬品や油に触れる部品にもPOM樹脂が使用されています。耐薬品性に優れ、長期間安定した性能を発揮します。
電子機器への応用
- コネクタや端子:
- POM樹脂は、電子機器で使用されるコネクタ、端子、スイッチなどの部品にも使用されます。耐摩耗性と良好な機械的特性により、耐久性の高い接続部品を提供します。
- ハウジング材:
- 電子機器の内部部品や外部ハウジングに使用されることが多いです。特に耐熱性が求められる部品に適しており、機器の耐久性を向上させます。
- 絶縁材料:
- POM樹脂は電気的に絶縁性があり、電子機器の基盤や配線などで絶縁材として使用されることもあります。
医療分野での利用
- インプラントや医療機器部品:
- POMは生体適合性があり、医療機器やインプラントの一部として使用されています。耐久性、強度、加工性に優れており、精密な部品製造に適しています。
- 注射器やカテーテル:
- 注射器の部品やカテーテルなどの使い捨て医療機器にもPOM樹脂が利用されます。特にその加工のしやすさと強度により、信頼性の高い医療機器が製造されています。
- 衛生管理:
- 医療機器に求められる高い清浄度を保つため、POMはその耐薬品性と低吸水性から選ばれています。薬品や消毒液に対する耐性も高く、長期使用に適しています。
その他の工業的応用例
- 精密機械部品:
- POM樹脂は、精密機械の部品(歯車、ローラー、ピンなど)に使用されます。特に、摩擦や騒音を減少させるために利用されることが多いです。
- 食品業界:
- 食品処理機器や包装機械の部品にもPOM樹脂は使用されています。耐薬品性と耐摩耗性が求められる食品加工機器において、安全で長寿命の部品を提供します。
- 航空宇宙産業:
- 航空機やロケットの部品において、POM樹脂は軽量で耐久性のある材料として活用されています。特に高い強度と低い摩擦係数が求められる部品での利用が進んでいます。
POM樹脂の安全性と環境への影響
POM樹脂(ポリアセタール樹脂)はその高い性能が特徴ですが、環境や安全性に関しても適切に取り扱うことが重要です。ここでは、POM樹脂に関する環境規制、安全な取り扱い、リサイクルについて説明します。環境規制とPOM樹脂
POM樹脂はその製造過程で、環境に影響を与えることがないわけではありません。特に、使用される原料や製造過程でのエネルギー消費に関連する環境負荷が問題視されています。以下の点が環境規制に関連しています。- 化学物質の使用制限:
- POM樹脂に使用される化学物質には、一部、環境に悪影響を及ぼす可能性があるものもあります。例えば、製造中に使用されるフタル酸エステルなどの化学物質は、環境規制に基づいて制限されることがあります。
- EU REACH規制:
- POM樹脂は欧州連合(EU)の化学物質登録、評価、認可および制限(REACH)規制に従い、化学物質の使用とその影響を監視する必要があります。これにより、POM樹脂が含まれる製品が販売される市場において、規制に準拠することが求められます。
- 有害物質の排出抑制:
- POM樹脂の製造過程で排出される有害物質(揮発性有機化合物、二酸化炭素など)については、環境基準に従って排出量の管理が求められます。これにより、大気や水質への影響を最小限に抑えることが目指されています。
リサイクルと持続可能性
POM樹脂はリサイクルが難しい材料の一つであり、リサイクルの取り組みが課題となっています。しかし、以下のような持続可能性に関する取り組みが進められています。- リサイクルの難しさ:
- POM樹脂は他の樹脂と異なり、リサイクルが困難な場合があります。高い融点や化学的安定性がリサイクルのハードルを上げる要因となります。ただし、回収後の材料再生が技術的に可能な場合もあり、一部の業界では再利用が進んでいます。
- 生分解性の欠如:
- POM樹脂は生分解性を持たないため、環境中に残ると長期的に影響を与える可能性があります。そのため、廃棄後の処理方法に注意が必要です。
- バイオベースPOM樹脂:
- 持続可能性を向上させるため、バイオベースのPOM樹脂が研究されています。これは、化石資源ではなく植物由来の原料を使用することにより、環境負荷を低減することが期待されています。
安全な取り扱いと廃棄
POM樹脂を取り扱う際は、以下の安全対策を講じることが重要です。- 健康への影響:
- POM樹脂は無害な材料として広く使用されていますが、製造過程で発生する粉塵やガスが健康に影響を与える可能性があります。特に加熱処理時に発生する煙やガスは、有害物質を含むことがあるため、適切な換気と防護具の使用が推奨されます。
- 廃棄方法:
- POM樹脂の廃棄は、通常のプラスチック廃棄物と同様に行うことができます。焼却時に有害物質を発生する可能性があるため、焼却施設においては十分な対策を施すことが求められます。また、リサイクル可能な範囲での再利用が推奨されます。
- 適切な貯蔵:
- POM樹脂を適切に貯蔵することも安全に関わります。高温や湿気が多い場所での保管は、品質を損なう可能性があるため、乾燥した冷暗所での保管が望ましいです。